2007.01.15号
あかぼこ山 41号



1.            冬は好きですか?

「一番好きな色は?」・・・・・・・・「白。」

「一番好きな季節は?」・・・・・・・「冬。」 

これは「冬のソナタ」でユジンから尋ねられたことに対するヨン様の答。理由は空気に透明感があるとかないとか…。訊いてみると同じような理由で「冬が好き。」という方が少なからずいるようです。他にも「酒が旨い」「スキーが出来る」等の理由もありそうですが、それでは「一番怖い季節は?」と訊かれたとしたらどうでしょう。私たち老人ホームにとって、冬は一番「怖い季節」であることは間違いのない所でしょう。理由はやはり「感染症の季節だから」ではないでしょうか。

毎年この季節になると、施設は戦々恐々、ノロウィルスやインフルエンザの流行状況に神経を尖らせています。その扱いはまさに「冬の二大悪役」。今冬は特にノロウィルスが例年と比べて早い時期から大規模に流行しました。しかも感染源がわからないため、全国の牡蠣業者が悲鳴を上げる事態に。もともとノロウィルスの感染力が強いため、例えば「未発症の感染者が給食センターのパンを扱った為、あちこちの学校で集団発生した。」のように感染源や感染ルートが直ぐに判明しづらい面があるのですが、今冬はさらに複雑怪奇で、しかも世界的な流行でもあったようです。あまりに流行が広範囲になったため、「ノロウィルスといっても2〜3日下痢嘔吐を伴う風邪程度なので、過剰に恐れないように。」というコメントがテレビなどで流され、またタレントが生牡蠣を食べる場面を画面に映したりと、心理面での沈静化を意図したような番組もありました。確かにノロウィルスの症状は一般的にはその程度です。そのあたりから先日、知り合いに「テレビでは心配するなと言うけれど、じゃあなんで病院や老人ホームで感染があると集団感染になって、死亡者が出たりするの?」と訊かれました。その因果関係を単純化すると次の通りになります。

1) 条件

@ノロウィルスの感染経路は糞口感染(便や嘔吐物にあるウィルスが手などを介して口から入って感染する)

Aノロウィルスはウィルス数が少なくても感染が成立する。(上記の給食のパン経由の感染例参照)

Bノロウィルスはアルコールなど使用しやすい消毒薬では効果が無く、有効とされる次亜塩素酸はアルコールのように手指に噴霧することは出来ず、金属を腐食させ、繊維は脱色してしまうような、使用しづらい薬物である。

Cノロウィルス感染の症状は、発熱、激しい嘔吐・下痢。

Dノロウィルスには治療薬がなく、免疫機能により克服できるまでは対症療法のみとなる。

 2) 環境

  D高齢者施設や病院では、排泄介助を必要とする方がいて、便の後始末という作業が高頻度で行われている。

  E高齢者施設や病院では、食事に関する介助を必要とする方がいて、何らかの食事介助作業が高頻度で行われている。

  F健常者ならば場面が限られている嘔吐や下痢の排泄が、身動きが不自由、認知症などのため日常生活場面で行われる。

  G高齢者施設や病院には、寝たきりで動けない方や嚥下機能が低下した方が多数入所している。

  H高齢者施設や病院は、生活環境に多くの職員や面会者が日々関わっている(出入りする)。

つまり、上記の1)と2)があって、わずかなウィルスが入り込んだだけでも次々と感染が広がります。例えばまだノロウィルス感染がおこっていない施設で、最初の感染者(下痢症状)のオムツ交換作業をした職員が、作業後の手指洗浄消毒が不十分な状態でお年寄りを車椅子に移乗させたとします。ウィルスは車椅子の押し手部分に付着します。別な職員がその車椅子の移動介助をすれば、また別の職員の手に付着します。1台の車椅子から何人もの手を通して感染は広がります。そして寝たきりで身動きの出来ない方が感染します。その夜仰向けにベッドで臥床している時に、不意に激しい嘔吐が襲います。自力では横を向くことも出来ないため嘔吐物は口腔内に充満します。激しく咳き込んで嘔吐物が気管に入り込みます。近くに職員がいれば対応できるかもしれませんが、もしいなければ…。

つまり健常者ならば「過剰に恐れる必要は無い」ものでも、自分で身動きの出来ない方にとってノロウィルス感染は命にかかわる感染症となるのです。それが要介護高齢者にとってのノロウィルス感染です。

ちなみに、右のグラフ(東京都感染症情報センター)を見ると、今冬のノロウィルス感染はようやく収束に向かいつつあるようで、例年程度の数値となってきています。例年ですと2月頃までは注意が必要な期間です。今しばらく警戒を怠ることは出来ません。

2.            施設の風景

1)お正月

 左の写真は施設のお正月風景です。元旦はいつもとお食事の時間帯が異なり、午前10時から祝い膳、夕食が午後4時、夜食が午後7時になります。祝い膳はおせち料理に並ぶ食材が少しずつお皿に盛り付けられています。とりたてて日常と代わり映えのすることは少ないのですが、やはり「明けましておめでとうございます」の新年のご挨拶を交わす際には心もあらたまります。                               

 元旦の午後には初詣に出かけました。出向いた先は施設から車で5分もかからない所にあります「多摩七福神」の一つ玉泉寺。「なんとしても初詣には来たかったのよ。」とお賽銭を投げながらしみじみと…。皆さん新年の祈願を済ませた後に、暖かい陽だまりの一角で梅茶をご馳走になりました。今年も一年元気で過ごして下さいね。

 

2)今年も元気だね!

11月18日に青梅みどり第一保育園の年長組の皆さんの慰問がありました。手遊びやクイズ、よさこいソーランや「長崎くんち」のような手作りの龍を掲げての龍踊り(じゃおどり)、最後はドン・カ・カ・ドン・カ・カと会場に響き渡る振動で迫力満点の和太鼓です。元気いっぱい踊って歌って会場のお年寄りを励ましてくれました。

 

 

3.施設からのお知らせ

1)施設内感染症予防措置について

 上記で今冬のノロウィルス感染について触れましたが、今冬のインフルエンザ感染については、左図は東京都感染症情報センター発表のグラフの通り、今のところ不気味なほどに流行の気配がありません。(ここに来て一部地域で学級閉鎖等の報道もあるようですが。)施設のある青梅市では例年これから2月中旬までが流行のピークになります。当施設では12月下旬より施設内感染予防強化措置を実施しており、お客様には大変ご迷惑をおかけしております。インフルエンザの流行が今後どのような動向を示すのか甚だ不透明な現状ですが、例年の流行のピークを鑑み、2月20日頃を目処に引き続き継続させて頂く予定です。皆様方に置かれましてはご理解と御協力のほど、宜しくお願い申し上げます。

 

4.余談

 私事ですが、日ごろの不摂生が祟ったのか、1月の中旬に1週間ほど入院する破目にあいました。病室は4人部屋、私以外の3人は高齢者の方で、そのうち二人はほぼ全介助状態の方でした。特に隣の方は頻回に痰の吸引が必要で、しかも鼻腔チューブを抜いてしまうため両手の拘束を受けていて、一晩中「看護婦さ〜ん」と呼び続けている状態の方でした。仕事柄でしょうか、隣の方への病院スタッフの皆さんの接し方がつい気になっていました。同室者ですから、24時間カーテン越しに盗聴しているようなもので、嫌でもやり取りが聞こえてきます。詳細は省かせて頂きますが、率直な感想は「長年この仕事をしていても、やはり患者にならないと判らないことがある。」ということでした。患者は24時間そこから動けず、一人でかわるがわる大勢のスタッフを相手せざるを得なくて、しかも自分で出来ないことが多くなる程、スタッフの個性(特にストレスへの耐性)にQOLを左右されてしまう。そんな姿がありありと伝わってきました。(もちろん病院スタッフを云々するものではなく、あくまで当施設の介護のことを振り返って考えさせられてのことです。)ベッドに一日中いる患者の視点があって、スタッフの関わり方に過度な粗密さが無く安定していて、必要性を補ってくれることへの裏づけされた安心感。得難いのかもしれませんが、そんなことを考えた一週間でした。